JBLフラグシップの系譜

1946年の創業以来75年を超える今日まで、JBLは時代毎にその時点でのテクノロジーの集大成とも言うべきフラグシップモデルを開発し、発表して来ました。これらのモデルは時代を超えて、多くのJBLファンに愛用され続けています。そんなJBLフラグシップ・スピーカーの歴史を振り返ってご紹介します。

初期のJBLシステム

JBLの創設者、ジェームスB.ランシングは、技術担当副社長を勤めていたアルテック・ランシング社を辞める際、「私は、美しい家庭用の高性能スピーカーを造りたいのだ」と言って社を去ったと言われています。JBL初期のシステムは、D130やD175に代表される彼の開発した高性能ユニットを家具調のキャビネットに納めた、文字通り美しく高性能な家庭用スピーカーシステムでした。しかしこれらのシステムを造り続ける一方で、彼は自らの考える理想のスピーカーシステムを造りたいという願望に捕り憑かれていました。しかしその完成を見ずしてジェームスはこの世を去ってしまいます。残されたスタッフ達は、その部門部門に通じた専門技術者達を雇い入れることで一人の天才の代わりを果そうと考えました。こうしてJBLは、プロジェクトとして製品を造り上げていく姿勢を確立していったのです。

JBLの創始者、ジェームスB.ランシング

JBL初期の家庭用スピーカーシステム D1000

ハーツフィールド (D30085 Hartsfield:1954)

JBLのスタッフは、ジム・ランシングが夢見た理想のシステムを完成させるべく、一大プロジェクトを立ち上げました。それが、1954年に発表されたハーツフィールド(Hartsfield)です。システムの名前ともなった発案者のウィリアム・ハーツフィールド(William L. Hartsfield)のアイデアを具現化した、複雑に曲がりくねったホーン構造を内包するコーナー型エンクロージャーを採用した大型フロアーシステムで、中高域ホーンにはやはり複雑な折り返し構造を持ち、ゴールドウィングと称された黄金色に輝く大型音響レンズを装備。JBL最大サイズの中高域用ドライバー375と15インチ径ウーファー150-4Cという当時市場で最も強力と謳われた新開発ユニット類を搭載して完成させた、まぎれも無いJBLのフラグシップモデルでした。ハーツフィールドは、一般ユーザーが初めて入手することができた、プロフェッショナル・クオリティーの音響システムとして高い評価を受けます。そして雑誌LIFE誌によって、市場にあるどのスピーカーよりも優れた「究極の夢のスピーカー」である、と賞賛されました。

JBL初のプロジェクトモデル D30085ハーツフィールド

Jハーツフィールド内部構造図

パラゴン (D44000 Ranger-Paragon:1957)

JBL二度目のプロジェクトモデル、それは1957年に発表されたD44000パラゴン(Paragon)です。低域部のフロントロードホーン開口部と、黄金に輝く開口部を持つ中域ホーンとを、大きく彎曲したセンターパネルに向けて配置し、そのパネルの反射によって試聴位置を問わず正確なステレオイメージを創出しようとしたステレオ時代初期の革新的なオールホーンシステムです。音響技術者として功績を残したリチャード・レンジャー(Richard H. Ranger)氏のIntegrated Stereophonic Reproducer(一体型ステレオ音場再生機)の音響理論を具現化し、新進気鋭のインダストリアル・デザイナー、アーノルド・ウルフ(Arnold Wolf)が意匠デザインを担当。低域用ホーンの設計にはJBL初のプロジェクトモデルの開発者であるウィリアム・ハーツフィールドも参加し完成させた、オーディオ史に残る傑作スピーカーです。パラゴンはパサデナ美術館やホワイトハウスにも納められ、またその後30年に渡り製造し続けられる、まさしくJBLを代表するフラグシップ・モデルとして君臨し続けました。

一体型ステレオ音場再生スピーカー パラゴン

D44000パラゴン

オリンパス (D50S8R Olympus:1960)

60年代初頭、JBLは新しいコンセプトに基づいた高性能ユニット群を発表します。強力な磁気回路を背景にロングギャップ/ショートボイスコイル設計を取り入れた超低歪みユニット「LE(リニア・エフェシェンシー)シリーズ」です。そして、それらのユニットを搭載した新しいスピーカーシステムを次々と世に送り出しました。そのフラグシップモデルとして開発されたのがオリンパス(Olympus)です。高度な伝統技術によって造られた木彫り組子格子をフロントグリルに用い、洒落たテーブルトップと堅牢なキャビネットを特徴としたこのシステムは、JBLの高性能ユニット群を組み合わせ、ユーザーの好みに合わせたシステム構成ができるフレキシビリティーの高さも魅力の一つでした。Jazz喫茶やパブなどに次々に導入されると、たちまちJazzファン達をJBLサウンドの虜にして行きました。

D50S8Rオリンパス

オリンパスはジャズ喫茶などでも音楽ファンを魅了

スタジオモニター 4350/4355(MODEL 4350:1973/MODEL 4355:1983)

1970年代、JBLは本格的に音楽産業向けのプロ業界に参入します。そして4310や4320に始まったスタジオモニター・シリーズの頂点を極めたシステムがMODEL 4350でした。38cm径ユニット二本をマウントし、中高域と低域とを別々のアンプで駆動するバイアンプ・ドライブ専用設計を採ったこのシステムは、圧倒的な低域エネルギーと超ワイドレンジ再生能力を持った、究極のモニタースピーカーでした。その後ユニットの改良を経て、4355へと引き継がれて行きますが、ダブルウーファーゆえのその巨大さと、バイアンプ駆動方式ゆえの使いこなしの難しさから、その後カタログから姿を消してしまいます。しかし、その圧倒的なサウンドクオリティーの高さから今なお多くのファンを持つスタジオモニターの銘機です。

スタジオモニター 4350Bと搭載されたユニット群

スタジオモニター 4355

エベレスト (DD55000 EVEREST:1985)

1985年、アナログからデジタルへ、という新しい潮流が生まれつつある時代に、JBLはパラゴンに代わる新たなフラグシップのためのプロジェクトを立ち上げました。Project EVERESTと呼ばれたこのプロジェクトで、JBLはステレオ再生の概念を撃ち破る新たなアプローチを行っています。それはJBLがプロ市場向けに開発したコンスタント・ダイレクティビティー・ホーンという偏指向性ホーンの特性を応用し、リスニングエリアの何処に居ても正確なステレオイメージが得られるという画期的な技術でした。これによりエベレストはホームオーディオの世界にサウンドフィールドという新しい概念を確立しました。また、DD55000エベレスト (EVEREST)ではJBL初のプロジェクトモデル、Hartsfieldに使われていたJBL伝説の傑作ユニット150-4Cを現代の技術で蘇らせた150-4Hというユニットを開発し搭載しています。エベレストはハーツフィールドのコーナー型フロアーシステムという概念と、パラゴンの独創的ステレオ再生へのチャレンジという二つの遺伝子を受け継いだJBLの会心作と言えるでしょう。

DD55000エベレスト

DD55000エベレスト

Project K2 S9500 (1989)

1989年、JBLは二つの革新的なユニットを開発しました。それは、最強の磁力を誇るネオジムをマグネット素材として用いた、4インチ径コンプレッション・ドライバー475Ndと14インチウーファー1400Ndです。1400Ndでは、熱に弱いネオジム・マグネットの欠点をクリアーするため、JBLプロが開発したボイスコイルの強制冷却システム、ベンテット・ギャップ・クーリング・システムという新しい技術を用いています。そしてこれらのユニットを搭載して完成したフラグシップ機が、Project K2 S9500でした。


K2 S9500にはもう一つの新たなアプローチとして、マルチウェイ再生における音像定位の不明瞭化を改善した「シンメトリカル・バーティカル・アレー」という独創的ユニットレイアウトを取り入れました。これは二つの低域ユニットで中高域ユニットを挟み、上下対称の仮想同軸型音源を創ることでフルレンジ型や同軸型スピーカーに匹敵する明瞭で正確な音像定位を実現する技術です。この技術はその後姉妹モデルであるK2 S5500やスタジオモニターM9500に受け継がれ、S2500/S3500やK2 S5800、SVAシリーズやスリムトールボーイ型のTZシリーズなど、ホームシアター・ファンを中心に絶大な支持を得るモデルを生み出しました。

Project K2 S9500

木肌の美しいホワイトウォッシュ・メイプル仕様のS9500 WMQ

L250 (1982) / 250Ti (1985) / Ti10K (1998)

1982年、JBLはその象徴とも言えるコンプレッション・ドライバー&ホーンをあえて用いず、ダイレクトラジエーター型と呼ばれるコーン型ユニットとドーム型ツイーターのみによる4ウェイのシステム構成を持ったトールボーイシステム、L250を発表します。バッフル幅を各帯域用ユニットの幅に合わせたピラミッド型のプロポーションを持ち、そのキャビネット形状そのままの、安定感のある低域から繊細な高音域まで整った音調と、ホーン型とは異なる独特な立体的音場感が魅力のシステムでした。1985年には、新たに開発されたダイアモンドエッジ採用のチタンドーム・ツイーターを搭載した250Tiへと進化します。


1998年、JBLに大型フラグシップモデルが不在の中、L250/250Tiのコンセプトをさらに昇華させたモデルとしてTi10Kが登場します。Ti10KはJBLハイエンドモデルの健在を市場に示すと共に、リアパネルを無くしサイドパネルから背面へ流れるような弧を描くその優美なキャビネット構造は、後のEVERESTやK2へと継承されることになります。

ピラミッド型のシルエットを持つL250

優美な曲線で構成されたTi10K

Project K2 S9800 (2001)

2001年という21世紀最初の年に、JBLは新たな世紀のフラグシップとして、Project K2 S9800を世に送りだしました。その開発テーマは「フルバンドウィズ&フルダイナミクス」。新たなデジタルフォーマットの出現により、圧倒的に拡大された周波数レンジとダイナミックレンジとを、余さずサウンドに変換する高い能力を実現させています。その中核を成すコンポーネントが圧倒的な低域再生能力を持つアルニコマグネット・ウーファー1500ALです。1980年代初頭のフェライトへの大変革期以来、減磁という固有の欠点ゆえにJBLが一切使用を拒否し続けてきたアルニコマグネットを、減磁を起こさない革新的な磁気回路構造を開発することで欠点を克服し、自ら復活させた画期的なウーファーです。


さらに、創業以来55年の伝統を破った新たな設計フォーマットにより開発された3インチ径ベリリューム・ダイアフラム採用のコンプレッション・ドライバー435Beと、他に類を見ない程の超高域のハイパワー再生を可能にした1インチ径コンプレッション・ドライバー045Beとにより、最新デジタルフォーマットによるサウンドを未知のレベルへと昇華させています。K2 S9800のために開発された数々の新技術は、K2 S5800やスタジオモニター4348などに受け継がれ、さらにこれらに続く新たなJBLシステムに継承されて行きました。

  • Project K2 S9800

  • S9800に搭載されたアルニコウーファー1500AL

  • ハイエンド史上空前のヒットモデルとなったK2 S9800

Project EVEREST DD66000 (2006)

K2 S9800の完成と同時に、JBLは来る創立60周年に向け、JBLの技術と伝統、そして全ての英知を結集した真のフラグシップ・スピーカーの開発に乗り出します。そして60周年を迎えた2006年、Project EVEREST DD66000を完成させます。JBL最大であり伝統の振動板サイズ、4インチ径ベリリウム・コンプレッションドライバーを備え、15インチ径アルニコウーファーを2基搭載したその堂々たる意匠はハーツフィールドの風格とパラゴンの優美さを併せ持ち、さらにK2 Projectによって昇華された高性能ユニット技術やシステム設計技術を融合させた、文字通りJBL史上最高傑作として市場に迎えられます。バッフル面のカーブをホーンのサイドウォールとして用い、ダブルウーファーによって得られた横幅を巨大なホーン開口部として活かしたフロントビュー、内部定在波を抑えるため曲面で構成されたリアパネルなど、大掛かりなダブルウーファーシステムながらリビングにおいて巨大さや威圧感を感じさせない秀逸なデザインは、初代エベレストDD55000以来すべてのフラグシップモデルや主要なハイエンドモデルのデザインを手掛けてきたダン・アシュクラフト(Daniel Ashcraft)氏の手による、ランシングが理想とした「家具のように美しいスピーカー」を現代に具現化した物と言えるでしょう。

  • DD66000エベレスト

  • ハーツフィールドの風格とパラゴンの優雅さを融合したDD66000の意匠

  • JBL60年の集大成DD66000 EVEREST

Project K2 S9900 (2009)

DD66000はJBLの理想を具現化したスピーカーとして、JBLファンのみならずオーディオマニア憧れのスピーカーとして市場に迎えられました。しかし、ダブルウーファーゆえのそのサイズから、全てのファンがそれを我が物として使える訳ではありません。エベレストの圧倒的なサウンドクオリティーをもっと手軽にリビングに迎え入れたい、という市場の要求に応えて登場したのが、Project K2 S9900です。K2 S9800~DD66000譲りのアルニコ15インチウーファー、JBL最大サイズの4インチ径コンプレッションドライバーを装備し、ホーンのサイドウォールとして機能するカーブド・バッフルや曲面で構成されたリアパネルなど、エベレストの設計要素をシングル・ウーファーに凝縮したモデルとしてJBLファンに歓迎されました。また、新たに開発されたマグネシウム・ドライバーのしなやかで穏やかな音色もエベレストと異なるこのモデル独自の個性として市場に受け入れられています。

Project K2 S9900

エベレスト同様ホーンとバッフル構造が一体となったキャビネットデザイン

Project EVEREST DD65000 /DD67000 (2012)

最高の技術を結集して開発されたDD66000でしたが、開発から6年が経過し、時代を超えたフラグシップ機として在り続けるために、更なる改良改善が求められました。そして、開発当時まだ途上にあった技術や新素材、その後に開発されたK2 S9900やスタジオモニター4365などの製品に応用された新たなオリジナル技術などを投入し完成したのがEVEREST DD67000です。剛性の高いサンドイッチ・コーンと反応の早いプリーツエッジを用いたウーファー、バーチ・プライウッドとカーボンクロスによって補強、ダンプされたバッフルなど、細部に渡ってリファインされたNew EVERESTは、JBLを超えることが出来るのはJBLしかない、と市場に言わしめる高い完成度を持ったシステムです。また、JBLはDD66000/DD67000と異なる個性を持ったもう一つの主峰として、EVEREST DD65000を同時に発表しました。K2 S9900に用いられたマグネシウム・ドライバーによる中高域を中核に、このドライバーの物理的特性と音色に合わせてモディファイされたウーファーとUHFドライバーを組み合わせることで、究極のフラグシップ機であるがゆえのシビアーさから聴く者にある種の緊張感をもたらすDD67000に対し、リラックスして音楽に没頭できる穏やかさとしなやかさを持った、音楽ファンのためのエベレストとして評価されます。

DD67000エベレスト

威風堂々とした意匠のDD67000エベレスト

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創立75周年を迎える2021年、JBLは “Science of Sound(音響科学)”と“ Art of Music(音楽芸術)”の融合をテーマに、たゆまぬ研究と努力により、人々に驚きと感動を与える新たなフラグシップの実現に向けて歩み続けています。