JBLスピーカーユニットの系譜

JBLは1946年の創業以来、数々の銘機と呼ばれるスピーカーユニットを開発して来ました。そして、これらユニットはスピーカーシステムの構成部品として用いられるだけでなく、自作でスピーカーシステムを製作するための重要なコンポーネントとしてもオーディオマニアを魅了し続けてきました。JBLスピーカーユニットの歴史を辿ってみましょう。

アルテック・ランシング時代のスピーカーユニット

ジェームスB. ランシングは、JBL創設以前から数々の銘ユニットを歴史に残して来ました。その代表的な製品が、アルテック・ランシング社の技術担当副社長時代に開発した傑作ユニット、604 DUPLEX同軸型スピーカーです。同ユニットとその系列機を収めたモニタースピーカーは、JBL製スタジオモニターにその座を譲る70年代まで世界中の録音スタジオで活躍する事になります。また、彼の開発した515ウーファーや288ドライバーなどのユニットは、「ボイスオブシアター」と呼ばれた映画上映用音響システムに搭載され世界中の映画館を席巻、アルテック社の基礎を築き上げました。

D130ワイドレンジ・ユニットの開発

1946年、ジム・ランシングがJBL社を設立し、最初に開発したユニットがD101という15インチ径ユニットでした。これはアルテック時代に彼が開発した515ウーファーに改良を加えたものに過ぎませんでした。


1947年にはこれに代わるまったく新しい磁気構造を持つJBLオリジナルのスピーカーユニットとして、アルニコVマグネットと4インチ径のエッジワイズ巻きボイスコイルを持ったワイドレンジユニット、D130を開発します。そして、12インチのD131、8インチのD208などの傑作ユニットを次々と造り出して行きます。


後に、これらのモデルはマキシマム・エフェシェンシー・シリーズとして体系化され、D130、D131に代表されるDシリーズから、70年代後期のKシリーズ(K110~K151)を経て、80年代にはEシリーズ(E110~E155)へと発展し、楽器用、PA用、そして多くの自作マニアによって家庭での音楽鑑賞用として愛用され続けました。


フェンダー社のギターアンプやベースアンプなどに組み込まれ、世界中の音楽シーンで活躍した色鮮やかなオレンジフレームのJBL製スピーカーユニット、Fシリーズ(D120F~D140F)も、このファミリーに属します。

  • ジム・ランシングが開発したJBL初期の傑作ユニット D130

  • Eシリーズ・スピーカーユニット

  • オレンジフレームのD120Fが搭載されたフェンダー・ツイン・リバーブ

LEシリーズ・ユニット

50年代後半、JBLは強力な磁気構造を背景にロングギャップ/ショートボイスコイル設計を取り入れたLE(リニア・エフェシェンシー)シリーズと呼ばれる超低歪みユニット群を開発します。フルレンジユニットLE-8、ウーファーユニットLE10A/LE15A、ツイーターユニットLE20/LE30などの高性能ユニットをラインナップしたこのシリーズは、LancerシリーズやOlympusなど銘機と呼ばれた優れた家庭用スピーカーシステムに搭載されると同時に、自作派オーディオファンのチャレンジ精神を大いに掻き立てました。中でも使い易い8インチ(20cm)径サイズのフルレンジユニットLE-8Tは、JBLスピーカーの登竜門として若いオーディオ愛好家を取り込み、JBLファンの裾野を広げる大きな役割を果たしました。

LEシリーズ・スピーカーユニット

JBL入門機として愛されたLF-8T

JBLのプロ用ユニット

70年代に入りJBLがプロ市場に本格参入を始めると、様々なプロ用スピーカーユニットが次々と開発されます。初期のプロ用ユニットは、LEシリーズなどのコンシュマー・ユニットにグレイのラフペイントを施し、堅牢な大型スピーカーターミナルを装着した物でしたが、プロ業界からの高出力高耐入力を求める要請に応じ、パワーハンドリングとリニアリティーを改善したより強力なユニットが続々と開発されます。ウーファーユニット2200シリーズ、ミッドレンジユニット2100シリーズ、高域ドライバー&ツイーターの2400シリーズ、ホーン&レンズの2300シリーズ、およびこれらをつなぐネットワーク3100シリーズ、と4桁のコードナンバーで明確に識別されたプロ用ユニット群は、スタジオモニターに搭載され音楽シーンで大活躍を演じると共に、プロのサウンドクオリティーを自作システムに取り込もうとするハイレベルなオーディオマニア達を育てました。

  • ウーファーユニット 2200シリーズ

  • ミッドレンジユニット 2100シリーズ

  • 高域ドライバー&ツイーター 2400シリーズ

  • ホーン&レンズ 2300シリーズ

  • ネットワーク3100シリーズ

JBLのネオジム・ウーファー

80年代末、新しいマグネット素材としてフェライトの10倍、アルニコの6倍という強力な磁力を誇るネオジムが実用化されると、1989年JBLはフラグシップ機Project K2 S9500のために世界初の14インチ径ネオジム・ウーファー1400Ndを開発します。1400Ndには、熱に弱いネオジム・マグネットの欠点を克服するため、JBLプロが開発したばかりのボイスコイル強制冷却システム、ベンテット・ギャップ・クーリング・システムという技術が用いられました。


2004年、JBLは30年以上続くコントロール・モニター4310シリーズの最新モデル4312Dとその姉妹モデル4318用の低域ユニットとして、ネオジム・リングマグネットを2枚のポールピースで挟んだ2組の磁気ギャップとデュアル・ボイスコイルを組み合わせた、独自のN.D.D.™(ネオジム・ディファレンシャル・ドライブ)方式の2213Ndウーファーを開発します。ベンテット・ギャップ・クーリング構造と大きなヒートシンクによる万全の熱対策が施されたこの強力な12インチ径ユニットの画期的な構造は、改良型2213Nd-1/2213Nd-2として後継モデル4319/4312Eへと引き継がれると共に、15インチ径バージョンへと拡張され、2216NdとしてS4700およびスタジオモニター4367に搭載されています。

世界初の14インチ径ネオジム・ウーファー1400Nd

独自のN.D.D.™方式の2313Ndウーファー

JBLの新アルニコウーファー

2001年、Project K2 S9800の開発に際し、JBLは斬新な構造を持つ15インチ径アルニコ・ウーファー1500ALを開発します。減磁という素材固有の欠点ゆえに80年代以降JBLが使用を断念してきたアルニコマグネットに、減磁を起こさない革新的な磁気回路構造を搭載することで欠点を克服した画期的なウーファーです。JBL20年ぶりのアルニコウーファー1500ALは自作派JBLファンの闘争心を煽り、単体のウーファーユニットとしても販売され、既存のシステムからの改造や自作キャビネットに入れたオリジナルシステムに用いられました。


1500ALは耐入力を改善することで1501ALへと進化し、ダブルウーファー仕様のDD66000 EVERESTに搭載され、さらに1500AL-1としてK2 S9900へ搭載されます。最新のDD67000 EVERESTでは、高剛性のサンドイッチコーンや応答性に優れたプリーツ・クロスエッジと組み合わせ振幅特性を改善することでさらに1501AL-2へと進化を果たしています。

15インチ径アルニコ・ウーファー1500AL

DD67000 EVERESTに搭載された1501AL-2ウーファーユニット

JBLのコンプレッション・ドライバー

ジム・ランシングはD130ウーファーに始まる低域用ユニットの開発と平行して、2インチ径ダイアフラムを用いた高域用コンプレッション・ドライバーユニットD175を開発します。これに蜂の巣と呼ばれたパンチングメタル製同軸状音響レンズを持ったホーンを組み合わせた175DLH系ユニットは、その後L101 Lancerなど多くのJBLシステムの高域用に用いられました。さらに、2インチ径のD175/LE175系ドライバーの磁気回路を強化した275やLE85ドライバーなどの傑作ユニットが生み出されます。


1954年、JBLは初の4インチ径ドライバーユニット375を開発します。それは1940年代後半にランシング自身がスケッチに残し実現を夢見ていた物で、アルニコVマグネットの実用化によって実現が可能となったユニットです。375ドライバーはJBL初期のフラグシップモデル、HartsfieldやParagonに搭載され、その後ダイアモンド・エッジを採用して高域改善を果した376へと進化します。


さらに、JBLはこれら高感度高出力なコンプレッション・ドライバーに負けない高い音響出力を持つ超高域ユニットとして、ドーナツ型のダイアフラムを用いたリングラジエーター式ツイーターを開発します。075、076、077リングラジエーターは高域拡張用として様々なスピーカーシステムに搭載されると共に、自作システムにも手軽に追加することができ、システムのワイドレンジ化に大きく貢献しました。


60~70年代、JBLはこれらリングラジエーターやコンプレッションドライバーとホーンによる中高域ユニットに、低域用ウーファーと帯域分割用ネットワークを組み合わせたコンポーネントをシステムキットとして体系化、001~087、S1~S12 Systemとネーミングされたユニットのコンビネーションを意匠を尽くしたさまざまなキャビネットに収めることで、魅力的なスピーカーシステムを生み出して行きました。

  • 「蜂の巣」ホーンレンズを持った175DLH

  • JBL初の4インチ径ドライバーユニット375の内部構造

  • 375コンプレッション・ドライバー

  • リングラジエーター 075

  • 体系化されたシステムキットのユニット構成表

  • S8システムに含まれるコンポーネントユニット

JBLのネオジム・ドライバー

世界初の14インチ径ネオジム・ウーファーをダブルで搭載したProject K2 S9500用の中高域ドライバーとして、1989年JBLは強力なネオジム・マグネットを用い、コンシュマ用4インチ径ドライバーとしては376以来となる475Ndを開発します。以降、275Nd、175Ndなどネオジム・マグネットを用いた新しいドライバーユニットを次々と開発し、様々なコンシューマモデルやスタジオモニターに採用して行きます。


2001年、新たなフラグシップ機、Project K2 S9800の開発に当たり、これまでのJBLの伝統である2インチ径や4インチ径ドライバーと異なる新たなフォーマットに基づいた3インチ径ドライバー435Beを新開発します。また、JBL最小サイズの1インチ径ドライバー045Beを超高域拡張用として開発、その技術を多くのバリエーション・モデルに展開させシステムに搭載して行きます。045Beは既存のJBLスピーカーシステムに載せて、手軽に超高域拡張が可能なネットワーク付の増設用UHFツイーターシステムUT-045Beとしても販売されました。


2006年登場のDD66000、2012年登場のDD67000の両EVERESTには、強力な15インチ・ダブルウーファーに伍する高い中高域エネルギーを確保するために伝統の4インチ径ドライバーを復活させ、大口径ダイアフラムとしては初めてベリリウムを用いた476Beを搭載。DD67000の姉妹モデルのDD65000とEVERESTのシングルウーファー・モデルK2 S9900には、穏やかな音調を持つマグネシウム・バージョンの4インチ径ドライバー、476Mgが用いられています。


JBLはドーナツ状のダイアフラムを用いたリングラジエーター型ドライバー2機を前後に結合することで超高域までのワイドレンジ再生と高いサウンドプレッシャーレベルの両立を果たした全く新しい構造を持つD2 Driverを開発。2016年、3インチ径バージョンのD2430K4367スタジオモニターに搭載しました。2020年に登場したスタジオモニターの最新モデル4349には、D2ドライバーの1.5インチ径バージョンD2415Kが搭載され、その鮮烈なサウンドが話題となっています。

  • K2 S9500に搭載された4インチ径ネオジム・ドライバー475Nd

  • 475Nd

  • 3インチ径ベリリウム・ダイアフラム採用の435Be

  • ネットワーク付き増設用UHFツイーターシステム UT-045Be

  • 4インチ径ベリリウム・ダイアフラム採用の476Be

  • D2ドライバーの分解構造図

  • スタジオモニター4367に搭載の3インチ径D2ドライバー 2430K

  • 4349に搭載の1.5インチ径D2ドライバー 2415K

JBLのホーン/音響レンズ

JBLは高感度なコンプレッション・ドライバーと組み合わせるホーンとして、初期には主にシアター用やPA用などの遠距離伝達に用いられて来たラジアルホーンを採用していました。しかし家庭用システムの設計にあたり、より近距離再生に有利な音響レンズとエクスポネンシャル・ホーンを組み合わせたシステムにその比重を移して行きます。


JBL初期の傑作ドライバー、175DLHに用いられたパンチングメタルを重ね合わせた独特な構造の音響レンズHL87(1217-1290)は、4インチ径ドライバー用のHL88(537-500)と共に、その独創的なデザインから蜂の巣と呼ばれ今なお多くのユーザーに愛用されています。


また、JBL初のプロジェクト・スピーカーシステムであるHartsfieldに搭載された折り曲げホーンレンズHL89(537-509)は、その美しさからゴールド・ウィングと呼ばれ多くのオーディオマニアを今なお魅了し続けています。


1980年代、JBLは垂直/水平指向性の正確なコントロールを目的としたバイラジアル・ホーン(Bi-Radial Horn)を開発します。軸上のみならず、指向性範囲全域にわたり均一な周波数特性を発揮するこの定指向性ホーンの開発により、近距離でもホーンレンズ無しに適切なサービスエリアを確保できるようになり、また短いホーン長と広い開口面積によりホーンの癖と見られていた特有の歪みを減少させながらクリアーな中高域再生を可能にしました。


バイラジアル・ホーンはスタジオモニターの4430/4435に搭載されると、以後多くのプロフェッショナル製品の中高域ホーンとして用いられるようになります。


このホーンの偏指向特性を水平指向性コントロールに活用し、ステレオ音場再生に革命をもたらしたのがDD55000 EVERESTであり、後にS2600/S3100という派生モデルも生み出しました。


以降、バイラジアル・ホーンはスタジオモニターを中心としたプロフェッショナル・ユースのシステムのみならず、K2、EVERESTなどのフラグシップ級モデルを中心としたコンシュマモデルにも無くてはならないホーン技術となります。

  • 独特な「蜂の巣」型音響レンズ

  • ゴールドウィングの異名を持つHL89(537-509)

  • 2360~2380シリーズ・バイラジアルホーン

  • バイラジアルホーンを搭載した最初のスタジオモニター 4430と4435

  • バイラジアルホーンの指向性コントロール技術を巧みに応用したDD55000 EVEREST

JBLの新たなホーン技術

JBL独自のバイラジアル・ホーンに用いられるホーン用素材が2001年K2 S9800に採用されたSonoGlass™と呼ばれる、宇宙開発や軍事産業から生まれた熱硬化樹脂です。1992年開発のK2 S5500に採用されJBL-CompⅡと名付けられた高密度ホーン素材をベースに、音響用素材としてより最適化を果たしたハイテクマテリアルです。低周波から高周波に至るまで共振が少なく、モールド成型のため形状の自由度が高いうえ、バイラジアルホーン技術に必要不可欠な複雑なカーブを忠実に実現できる高い加工精度を備えた、理想のホーン素材です。SonoGlassはS9800以降、EVERESTシリーズを含む多くのハイエンドモデルや、4367、最新の4349を含むスタジオモニターシリーズに採用され、JBLのホーン技術を支えています。


2016年、JBLスタジオモニターの新たなフラグシップモデルとして開発されたMODEL 4367には、バイラジアルホーン技術の発展型HDI™(High-Definition Imaging)ホーンが搭載されました。Image Control WaveguideとしてJBLプロが開発したこのオリジナル技術は、安定した定指向特性と音像定位、優れた3D立体音場再生能力を誇る新しいホーン設計技術です。スタジオモニターの最新モデル4349にも採用されその高精細な音場再生能力に貢献、コンシュマ製品にもStudio 6シリーズなどにその技術が応用されています。

K2 S9800に搭載されたSonoGlass™製ホーン

スタジオモニター4349のHDI™ホーン

JBLの歴史はユニットの歴史

スピーカーシステムにとってスピーカーユニットは、車におけるエンジンにも匹敵する最重要コンポーネントです。JBLスピーカーシステムの開発は、昔も今も、まず優れたスピーカーユニットの開発から始まります。これは、アッセンブル・メーカーではない、スピーカーマニュファクチャラーとしてのJBLの誇りです。最新のフラグシップ機、Project EVEREST DD67000やスタジオモニターのMODEL 4367に搭載されているユニット類は、JBLの技術と伝統の集大成と言えます。


創立75周年を迎える2021年、JBLはまた新たなユニットを搭載した魅力的なスピーカーシステムを提案してくれる事でしょう。どうぞご期待ください。