大阪随一の繁華街・心斎橋にある「BAR JAZZ」。マスターの牧慶次氏は、神戸のバー「ゴスペル」での修行を経て、2003年にこの場所で同店をオープンした。リピーターも多いが、心斎橋という場所柄、ふらりと訪れる客も少なくないため、オープンな店づくりを心がけているという。ハードリカーはもちろん、日本酒も取り揃えているお酒のラインナップは豊富。中でも、大阪にあるワイナリーに赴き、ブドウ畑の仕事を手伝うこともあるという牧氏の、最近のおすすめはワインだ。「牛すじ肉の赤ワイン煮込み」や「アボカドの糠漬け」など、妻・絵理香氏のワインによく合う手料理も人気を博している。
「以前は、DJとしてレコードをかける場所といえば、クラブくらいしか発想にありませんでした。神戸の『ゴスペル』で、バーで"いい感じ"に音楽を提供することの素晴らしさに出会いました。このお店には、幅広い年齢層のお客さまが来てくれますが、メインは30代~40代くらい。常連だけが集まっているような雰囲気にならないよう、心がけています」
地元・大阪の人は、「みなさん『あれかけて!』などと、遠慮せずにどんどんリクエストするから、東京から来た人は驚いています」と語る牧氏は、「そこが、この大阪のおもしろいところです」と笑顔を見せる。
「音楽とお酒、料理を含め、店の雰囲気全体を楽しんでくれている方が多いと感じています。誰でも気軽に楽しめる、開かれたお店づくりを、これからも続けていきたいですね」
「BAR JAZZ」のスピーカーは、ウーファー「2220H」各2本と、ドライバー「2482」、ホーン型ツィーター「2405」で構成されている。ネットワークは、「3110」を使用。豊かなJBLスピーカーのサウンドは、「酒場でかける音楽」に最適だと牧氏は語る。
「最初は2ウェイで鳴らしていたのですが、開店して10年ほど経ったときに、現在の3ウェイの構成にしました。JBLスピーカーの良さは、そのサウンドにボリューム感、豊かさや力強さがあって、音がしっかり出るところ。厚みがあってとてもいいですね」
「悩んでいろいろなことに挑戦して、やっとここまで来た(笑)」と打ち明ける牧氏。ここ数年、同店のJBLサウンドには、十分満足しているという。
「3ウェイにしたときに、クロスオーバー周波数を若干、重なるようにセッティングしてみたんです。そのほうが、音の厚みや柔らかさが出ることがわかりました。家の居間で、ピュア・オーディオを聴く場合は、違うセッティングの方法があるのかもしれません。だけど、このお店の中では、今のセッティングが一番いい。酒場の中の雰囲気がある音、空間を埋めるような役割の音を出してくれていると思います。ジャズはもちろん、どんな曲にも対応してくれる。JBLは、いつでもキレイに鳴ってくれるスピーカーだと実感しています」
牧氏は、2001年ごろから「USEN」でジャズチャンネルの選曲を担当している「選曲家」でもある。それだけに、BGMとしてのジャズを存分に聴かせてくれることも、同店の大きな魅力だ。
「全体的に賑わっているときや、静かに話し込んでいるときなど、店内の雰囲気の違いに配慮して、かける曲を選ぶようにしています。実はBGMとしてのジャズには、インストゥルメンタルのみ、ベースやドラムなどのソロは1分以内など、厳密なルールがあります。得意ジャンルのBGMをベースに、さまざまな要素を加えた幅広い選曲をしていきたいと思っています」
店でかけるのは60年代前後のモダンジャズが多いが、「USEN」での仕事もあり、同店では新譜も数多く聴かせてくれる。最近では、ヨーロピアンジャズを発信する大阪のレーベル「澤野工房」などがおすすめだ。
「エストニアのトヌー・ナイソー・トリオや、スウェーデンのE.S.Tなどもいいですね。ジミー・スミスやラムゼイ・ルイスなどのファンキージャズからジャズの世界に入りましたが、自分はもともと何でも聴くタイプ。今ではブラジルやアフリカ、中東の音楽もチェックしています」
ジャズの魅力は、そこに美意識や創造性があることだと語る牧氏。長年、培ってきた選曲のスキルを発揮し、今夜も「BAR JAZZ」を訪れる人に、心地良いBGMを聴かせていることだろう。
「ジャズには、聴いていてカッコイイと感じる雰囲気がありますよね。楽しいだけじゃなく、その中に美意識や創造性が詰まっている。何を聴いて『ああジャズだな』と感じるかは、人によって違います。それを探りながら、『ジャズが何となくカッコ良く流れていたな』と感じてもらえるようなものが、その夜に1曲か2曲あればいい。それを目標に、選曲を続けていきたいと思っています」