2013年11月、茨城県水戸市に究極のサウンドシステムを目指して「4350」を導入したJAZZ喫茶が誕生。それが「JAZZ ROOM CORTEZ」(コルテス)である。
オーナーは水戸市に隣接するひたちなか市で歯科医院を30年以上営む伊藤輝彦氏。趣味のJAZZとオーディオを最大限に楽しむために、最高のサウンドを目指してオーディオシステムを構築した。
「高校生の頃からオーディオが好きだったんです。その時代はまだJAZZに目覚めていなくて、ひたすらロックやキングクリムゾンなどのプログレを聴いていましたね。この店の名前も、その時代に大好きだったニール・ヤング&クレイジー・ホースというロックバンドの曲“Cortez The Killer”(コルテス ザ キラー)から取りました。ビル・エバンスやパット・メセニーの曲名から店名を取ると、JAZZ喫茶なら他店と被ることもあるでしょうが、ニール・ヤングなら名前が被ることはないと思います(笑)」
ロック少年だった同氏は、ある時FMラジオでキース・ジャレットを聴き、大きな衝撃を受けたそうだ。そして、そこからJAZZにのめりこんでいく。
「JAZZの持つ大人っぽい雰囲気に憧れたのもありますが、とにかくJAZZが好きになりました。そこからマイルス・デイビス、コルトレーン、セロニアス・モンクなど、次々にレコードを買い集めていきました。昔からコレクター癖が強いもので、とにかく集める(笑)。今では1万枚は超えていると思いますね」
そして、JAZZのレコード収集と並行して、オーディオ熱も高まっていく。大学時代にはすでにMark Levinsonのプリアンプ「LNP-2L」を持っていたそうだ。
「僕にとっては夢のアンプでした。それまでも、様々なアンプを試したんですが、どうしても“LNP-2L”が欲しくてローンを組んで買いました。“LNP-2L”は、艶っぽくて心地よい音を鳴らせる最高のアンプなのですが、オーディオの道は恐ろしいもので、今度はスピーカーが物足りなくなった。“LNP-2L”の性能を最大限に発揮できるスピーカーが欲しくなったんです。JBLの“L40”や“4344”も買いましたが、さらに上を目指したくなり、大型モニタースピーカーのJBL“4350”を買いました。歯医者になりたての頃で、当時住んでいた6畳ひと間に無理矢理置きましたっけ(笑)」
このMark Levinson「LNP-2L」と、JBL「4350」が、同氏のオーディオの方向性を決定づけた。「4350」は幅が1,210mm×高さ890mm×奥行510mmという、あまりの大きさゆえに数年で手放したそうだが、コルテスのオープンにあたっては、迷わず「4350」を新たに導入した。そして、ずっと愛用していた1970年代の「LNP-2L」も店で現役でドライブし続けている。
コルテスのオーディオはとにかく凄まじい。スピーカーはフルレストア済みのオールドモデル「4350」、プリアンプは「LNP-2L」、中音域用パワーアンプにMark Levinson「No436L」を2台、低音域用パワーアンプにMark Levinson「No334L」を2台、CDプレーヤーもMark Levinson「No512」が導入されている。
「低音域用の2台の“No334L”は、BTL接続という方法で“4350”に繋いでいます。簡単に言うとデュアルモノラルパワーアンプの2つの出力を1つにまとめて、左右の“4350”低音域にそれぞれに割り当てています。2台のアンプを左右1台ずつのモノラルアンプとして使うことができますので、2ch使用時よりも格段に大きな出力を得ることができ、余裕を持って低音をハイパワーで鳴らせるのが大きなメリットですね」
コルテスの「4350」はJBLが1973年に限定で製造したアーリーモデル。低音域には38cmウーファー「2230A」をダブルで搭載し、中低域(ミッドバス)は30cmウーファー「2202A」、中高域(ミッドハイ)はドライバー「2440」とホーン「2311」に音響レンズ「2308」、高域にはツイーター「2405」という4ウェイ・5スピーカーの構成。JBLが威信を賭けて開発したモニタースピーカーの最高峰である。
さらに、コルテスのシステムの特長として、正統派JAZZ喫茶には珍しいPCオーディオの導入がある。
「やっぱりJAZZはアナログのLPで聴きたいし、聴いて欲しいと思います。どうしてもLPがない場合は、仕方なくCDを聴くというスタンスだったのですが、Mark Levinsonの“No512”なら、SACDはもちろんCDもいい音が出ます。ですから、デジタルは“No512”導入までで終了と思っていました。でも、試しに聴いてみたPCオーディオも悪くなかった(笑)。最高のDACを、USBやFireWireより高速転送が可能なThunderboltで繋いで試したので、DSD音源をストレスなく再生できたのもありますが、、個人的には“LNP-2L”の懐の深さというんでしょうか、何でも良く鳴らしてくれるおかげだと思います」
コルテスでは、デジタルオーディオシステムの完備により、お気に入りの1曲をUSBメモリで持参して、聴かせてもらうこともできる。大好きな曲が、この超弩級システムから大音量で流れるのを想像して欲しい。しかも、オリジナルブレンドのコーヒーは500円。この金額で最高のオーディオを楽しめるのだ。まさに至福の時を味わえるひとときである。
「JAZZは芸術だと思います。これを風化させちゃいけない。ですから、私が集めた1万枚を超えるJAZZのレコードを、自分ひとりで聴くのではなく、皆さんと共有したい。それが、この店をオープンした大きな理由のひとつです。ですので、最高の音が鳴るように、自分が大好きな音を目指して贅沢にオーディオを組みました。相当にお金もかかりましたが、夢を買ったと思えばいい(笑)。実際、夢のシステムだと思いますね。システムが組み上がって初めて鳴らした時は、スピーカーが消えた、と思いました。スピーカーの存在を忘れるというか、ミュージシャンが目の前で演奏しているかのような、限りなく生音に近いサウンドだと自負しています」
コルテスで流される音楽は、マスターでありマスターメカニックの藤江健氏にすべて任されている。
「選曲はアバウトです(笑)。基本的にはマスターの趣味や気分による選曲ですね。とはいっても、決して便利な場所ではありませんので、お客様があまり来ません(笑)。ですので、どんどんリクエストしてください。LPやCDもかなりの枚数がありますし、HDDは4TBありますから、お客様好みの選曲を最高の音で楽しんで頂けると思います。もちろん、LPやCD、USBメモリをお持ちいただければ、いつでもかけて差し上げます。スマホからでも大丈夫ですよ。他にお客様が居ない場合はロックでもいいかな(笑)。“4350”はロックも、びっくりするくらいいい音が出ますよ」
実際、取材時にはJAZZ以外に「Led Zeppelin」の「Whole Lotta Love」もDSD音源で聴かせていただいた。「4350」のダブルウーファーからはジョンジーのベースが恐ろしく重く響き、ボンゾのシンバル音も非常にクリアに鳴り、今ままで聴いたことのないZeppelinがそこにあった。
そして、2015年9月。同店の隣に「ライブルーム コルテス」がオープンした。それまでは、ライブもJAZZ喫茶スペースで不定期に開催されていたが、音を追求するオーナー伊藤氏は、やはりライブは専用の音響設備の中で開催したいと考えての別オープンとなった。
「今までもそうでしたが、週末のライブは一流のミュージシャンを招聘しています。オーディオのジャズルーム・コルテス同様に、ライブルーム・コルテスでニアフィールドの生音もぜひ楽しんで頂きたいですね」
ライブルーム・コルテスには18本にも及ぶマイクが用意されており、マルチレコーディングが可能。マスターメカニックの藤江氏、オーナーの伊藤氏により「4350」で音を確かめながらミックスダウンも行われ、CDの制作もできる。プロアマ問わず、ライブはもちろんレコーディングスタジオとしての利用も可能だ。
「今後の目標はコルテスレーベルの立ち上げですね。ミュージシャンのライブCDをシリーズで出していきたいと思います」
音の再現性にこだわり、全てを贅沢に構築した「4350」を中心としたオーディオシステム。ここ「コルテス」で、スピーカーの存在を忘れる最高のサウンドを体験して欲しい。水戸に出かける価値は確実にある。