すすきの駅にほど近い雑居ビルの4階。微かに聴こえてくるハードバップの調べを辿りながら見つけた「JAMAICA」のドアを開けば、圧倒的な「PARAGON D44000」 のサウンドに身を包むことができる。開店は1961年。現在、療養中のマスター・樋口重光氏に代わり、同氏と共に50年以上カウンターに立ってきた奥様の樋口ムツ氏が店を切り盛りする。「PARAGON D44000」のサウンドを目当てに、遠方から訪れるファンが引きも切らない人気店だ。
「地元の常連のお客様も多いのですが、北海道各地はもちろん、中には沖縄から聴きに来るお客様もいます。カウンターに背を向けて、スピーカーのほうを向いてじっと聴いているオーディオファンの方もいらっしゃいますよ」
かける曲は樋口重光氏の好きな50年代、60年代のハードバップが中心。高校生の頃、すでにジャズに魅了されていた重光氏だったが、当時、ジャズが広く認知されていたわけではなかったため、一般的な喫茶店として営業を開始。店名を、自分が好きなブルーマウンテンに使う豆の産地にちなみ「JAMAICA」とした。
「半年間、ほとんど誰も来なかったんです。あまりにヒマなので趣味だったジャズのレコードをかけて聴いていたら、お客様が来るようになり、口コミで評判が広がっていきました(笑)」
それから50余年。今では、全国のジャズファン、オーディオファンが「JAMAICA」に足を運ぶ。
「特別なことはもちろん、メンテナンスも一度もしたことはないのですが、購入した43年前から今まで、ずっといい音を奏でてくれています」
その卓越したサウンドと美しいフォルムで、今なお多くのファンを魅了し続けているオールホーンのスピーカーシステム「PARAGON」。同店にあるのは、「PARAGON D44000」の初期モデルだ。大き目のボリュームで曲をかけても、決して疲れることはないと、樋口ムツ氏はその卓越したパフォーマンスに太鼓判を押す。
「お昼の12時から深夜0時まで12時間聴き続けていますが、少しも疲れないんです。低音も素晴らしく、この音は『PARAGON』じゃないと出せないなと思いました。素晴らしい音だと感じています」
ホーンスピーカーの音の広がりも抜群で、「店内のどこに座ってもベストポジション」。店を続ける限り、この「PARAGON D44000」を使い続けていくと樋口ムツ氏は笑顔を見せる。
「この『PARAGONの音を聴きに来ました』という客様が多いので、これからもずっと期待に応えていきたいと思っています」
店内に並ぶレコードとCDは約1万5000枚。自宅のものと合わせると、そのコレクションの数は約2万3000枚に上る。マスター・樋口重光氏は、少年の頃からチャーリー・パーカーが、樋口ムツ氏はジョン・コルトレーンが好きだという。
「音楽は好きで、昔からポップスは聴いていました。主人と出会ってジャズを耳にしたけれど、最初は良さがまったくわからなかった(笑)。一年経ち、二年経ったら、ジャズはこんなに素晴らしいものなんだと気づきました。奥が深く知れば知るほど好きになりますね」
同じ曲でも、演奏するミュージシャンによってイメージが変わるなど、ジャズにはさまざまな楽しみ方があると、樋口ムツ氏は語る。
「あるレコードの中で、マッコイ・タイナーがずば抜けていい演奏をしているとなれば、マッコイのレコードを探して聴き、その中でソニー・フォーチュンが素晴らしいのを発見すれば、今度はソニー・フォーチュンを追いかける。そんな広がりを持っているところも、ジャズの魅力。これからも、そんな素敵なジャズのサウンドを『PARAGON』でお届けしていきたいですね」