横浜市・都筑区にある「港北ニュータウン」。美しい街並みが有名な「仲町台」駅前に、2014年6月、JAZZ喫茶「TOMMY'S BY THE PARK」(トミーズ・バイ・ザ・パーク)がオープンした。オーナーは、昨年大手企業を定年退職した和田知行氏である。
「長年、働いてきましたので、第2の人生は好きなことをやりたいと決め、若いころから夢見ていたJAZZ喫茶を思いきって開くことにしました」
幸運にも、地元のお洒落な店が並ぶミモザ通りの一角に空き物件が見つかり、それも開店の決断を後押ししてくれたと言う。
「とはいえ、儲からないことはわかっていました(笑)。ですから、全部ひとりでこなせる範囲の、お店づくりを考えました」
その結果、LPは置かない。すべてCDのみでJAZZを提供しようと決めた。また、お酒も出さずコーヒーが中心。しかも、全席禁煙である。営業時間も通常は18:00までということにした。その結果、従来のJAZZ喫茶とは一線を画す、明るいカフェのような雰囲気となった。
「仲町台にはヨーロッパ風の並木道や、小川の流れる公園がありますので、そのイメージにマッチしたお店にしたかったというのもあります。また、お客様の層を考えると、JAZZのマニアが集う本格的な店というよりは、JAZZも楽しめる気軽なカフェのような店を作りたかったんです」
同氏は、学生時代からJAZZが好きだった。さまざまな有名JAZZ喫茶に通い詰めたという。そして、就職後の1988年からサンフランシスコに駐在。5年間のアメリカ生活で、サンフランシスコはもちろん、ニューヨークなど様々な都市で本場のJAZZに触れてきた。
「アメリカ各地のJAZZクラブで、オスカー・ピーターソンや、チック・コリア、ジョー・ヘンダーソン、サラ・ヴォーンなど、そうそうたるアーティストの演奏を生で聴く機会がありました。それで、ますますJAZZに対する思い入れが深くなったと思います。いつかはJAZZ喫茶を出そうと思ったのも、その経験があったからですね。また、アメリカはCDがとにかく安い。滞在中に1500枚は買いました。店のCDの1/3はアメリカで買い求めたものになっています」
アメリカ時代のCDコレクションを含め、同店には現在約4500枚のCDが置かれている。店内に整然とレイアウトされた棚には、モダン・ジャズだけでなく、ディキシーやスウィングなど幅広いジャンルのJAZZが一通りカバーされている。
「私個人は50年~60年代のハードバップが好きです。激しいフリー・ジャズも嫌いではないのですが、個人の 楽しみとして開店前の掃除中に大音量で聴いています(笑い)。営業中は主婦のお客様も多いのでTPOに合わせ、ピアノ・トリオやボーカルを含め、くつろいでいただけるJAZZを流すように心がけています。もちろん、リクエストいただければ、お好きな1枚をおかけしますよ」
同店の奥には、現在JBLスタジオモニターのフラッグシップである「4365」が置かれている。大型38cmウーファー「1501FE」と、100mm径コンプレッション・ドライバー「476Mg」+JBLモニター史上最大の開口面積を持った大型ホーン、さらに、超高域に25mm径のコンプレッション・ドライバー(スーパーツイーター)「045Ti-1」という3Wayシステムである。
「学生時代よりオーディオは好きでしたがJBLは高嶺の花でした。1980年頃だったと思いますが、ようやくスタジオモニター“4301WX”を購入。当時のモニタースピーカーの中では一番の小型だったと思いますが、それでもJAZZとの相性の良さに驚いたのを覚えています」
その後、同氏はアメリカに赴任するが「4301WX」は持って行けなかったという。しかし、JBLのスタジオモニターに対する想いはつのり、2005年に自宅のアンプやCDプレーヤーを入れ替えた際には、当時、スタジオモニターのフラッグシップだった「4344MkⅡ」を導入しようとした。
「妻に反対されてスピーカーまでは手が回りませんでした(笑)。その時、将来JAZZ喫茶を出したら絶対にフラッグシップを置こうと決意したんです」
その決意通り、同店のオープンに際し「4365」を導入。大きさを考慮して置き場所や配置する高さを決め、設計士に依頼した。表からは見えないが「4365」の下には、コンクリートで固められた土台が埋め込まれているそうだ。
「セッティングは一発で決まりましたね。“4365”を購入した専門店の方とも話したんですが“直す必要ないよね”って意見が一致しました。アッテネータのセッティングなど、細かい調整も覚悟していましたが、フラットな状態でよく鳴ってくれています。JAZZの再現性も見事だと思いますし、アーティストのエネルギーが伝わってきます」
同店の店内レイアウトは細長い。4365は店の一番奥に置かれているが、スピーカーそばのカウンターと、店の入り口では音の雰囲気が変わる。ダイナミックなサウンドを楽しみたいならカウンターだが、大型のフロアシステムならではの臨場感あるサウンドは、店の入り口付近にも音がしっかりと迫り、豊かな音場空間を再現している。
「おかげさまで、多くのお客様からポジティブなご評価をいただいています。CDをお持ちになる方もいらっしゃいます。皆さん“4365”のサウンドに驚いてくださいますね」
同店はメニューが少ない。コーヒー、カフェオレ、エスプレッソ、アイスコーヒー、アイスラテの5種類のみである。しかし、その分、豆と水にはこだわっているそうだ。
「豆も横浜の自家焙煎店のオリジナルブレンドをハンドドリップで淹れていますし、高性能の浄水器を使用して、安全で美味しい水を作っています」
また、店の隣には、手作りのベーカリーがある。その、焼きたての米粉パンをトレーのまま同店で食べることも可能だ。11:30〜14:00までのランチタイムは、パンのイートインのお客様に限り、コーヒーが150円OFF、14:00以降も100円OFFとなる。地元の主婦を中心に人気を博しているサービスだ。イートインをしないお客様には、自家製の焼き菓子のサービスもある。
「主婦の方が多いというのも、普通のJAZZ喫茶とは違うところでしょうか(笑)。皆さん気軽にJAZZを楽しみながら、読書したり、おしゃべりをしたり、ゆったりとした時間を過ごされています」
ちなみに、開店後の最初のお客様もご高齢の主婦だったそうだ。トロンボーンの演奏をされていたご主人を数年前に亡くしたと聞き、カーティス・フラーの「ブルース エット」をかけたところ、ご主人を偲び落涙なさったそうである。
幅広い層のお客様に愛される同店には、もちろん、JAZZ好きのお客様も多く訪れる。本場のJAZZを実体験しているマスターとのJAZZ談義も楽しいと評判だ。
「JAZZを身近なものとして楽しんで欲しいと思います。ひとりでお店を回していますので、忙しいときには飲み物のご提供が遅くなるかもしれませんが、ぜひ、美味しいコーヒーと、JBLの最高峰のスタジオモニタースピーカーで聴く、いい音のJAZZを味わっていただければと思います」