創業昭和27(1952)年という、長い歴史を持つ「JAZZ 喫茶 海」。マスターの小宮一祝氏は、30年ほど前に店を受け継いだ同店の二代目だ。米軍朝霞キャンプがあったころ、英語が堪能だった小宮氏の父・小宮一晃氏がオープンし、当時は多くの米兵で賑わいを見せていたという。
「真空管アンプでレコードを聴かせるスタイルで、みんなでワイワイ会話を楽しんでいるそのバックに、いい音でジャズを流す。昔も今も、そんな感じの店です。最近はジャズやJBLファンの若いお客さまも多いですね。駅から遠い場所にあるので、ふらりと入るというより、ジャズやJBLのサウンドを求めて、わざわざ足を運んでくれる人が多いようです」
50年以上変えずに使用しているコロンビア豆を、秩父の天然水で淹れたコーヒーも同店の売りのひとつ。ランチ営業もあり、週末の夜は頻繁にライブも行なわれる。
「ランチタイムは、あまりボリュームを上げずにピアノ・トリオなどをかけることが多いですね。横浜や都内など、遠方から足を運んでくれたお客さまがいるときは、大きなボリュームで『4435』のサウンドを楽しんでもらっています。ジャズ喫茶は敷居が高いという人もいるけれど、自分がいいと思った音や曲があれば、単純にそれを楽しむことが一番だと思います」
地域の高校生と共にジャズのイベントなども行なう小宮氏。今、ジャズ喫茶は、ジャズの伝道師の役割を担っていると語る。
「サラリーマンの月給が1万円で、レコードが3000円だった時代は、レコードが買えないからジャズ喫茶で聴くという、ジャズ喫茶の存在意義がありました。一方、現代のジャス喫茶は、データでしか音楽を聴いたことがないという人や、住宅事情もあって大きなスピーカーで音楽を聴けないという若者を中心に、素晴らしいサウンドでジャズを体感してもらうという、ジャズの伝道師のような役割を持っているのではないかと思っています。その役割を果たせるようないいサウンドを、今後もお届けしていきたいですね」
「JAZZ 喫茶 海」のスピーカーは、小宮氏が店を継ぐ際に導入した「4435」。1980年代前半に発売されたスタジオモニタースピーカーで、ダブルウーファーが特徴的な名機だ。小宮氏は店を継ぐにあたって、新たなスピーカーの導入を検討していた際、試聴してすぐにこの「4435」に決めたという。
「いろいろ聴いてみたけれど、これが一番素直で、まろやかな音を出していました。『4435』のサウンドは、重厚で幅が広いというイメージがあります。店ではジャズ以外のレコードもかけるけれど、ジャズが一番、いい録音をしていますね。そして、この『4435』は、その録音状態までしっかりとわかるスピーカー。いいスピーカーは、その音楽の神髄をしっかりと表現してくれるのだと思います」
「オーディオマニアではないので、ジャズがいい音で流れてると実感できれば、それでいい」と笑顔を見せる小宮氏。「4435」を導入してから現在まで、セッティングなどの苦労もなく、変わらぬサウンドを奏でてくれているという。
「JBLスピーカーを買うのが当時の夢でした。30年以上使っているけれど、いいものは決して飽きない。デザインもいいし、JBLのロゴを見ると心が和みます(笑)。ジャズ喫茶やジャズバーのマスターたちがこぞってJBLを使い、評価している。何よりその事実が、JBLの素晴らしさを物語っているのだと思います」
同店を経営していた父・一晃氏の影響を受けて育った小宮氏は、中学生のころからジャズの洗礼を受け、しだいにその魅力に惹かれていったという。
「最初に父からチャーリー・パーカーやデューク・エリントンなどを聴かされたけれど、さっぱりわからなかった(笑)。あるとき、ラジオ番組の『ジェットストリーム』でデイヴ・ブルーベック・カルテットの『テイク・ファイヴ』を聴いて好きになり、それを父に話したら、この曲が収録されているアルバム『タイムアウト』を持ってきてくれたりしました。その後は、どんどんジャズが好きになって、ベニー・カーター・ジャズ・オールスターズなんかのライブも聴きに行ったりしましたね」
近年では、カナダのダイアナ・クラールなども好きだという小宮氏。中学生のころから親しんできたジャズの魅力は、どんな年齢でも楽しむことができて、生涯付き合っていけるところにあると語る。
「父は85歳で病床についた際、カセットでマイルス・デイビスやベニー・グッドマンを聴いていました。一方で、朝霞のジャズイベントに参加した高校生が、ジャム・セッションをカッコイイと言ったりする。こんなに広い年齢層に愛される、懐の深い音楽はほかにないでしょう」
日本のジャズの歴史とともに歩んできた「JAZZ 喫茶 海」。これからも小宮氏は、ジャズの素晴らしさをJBLサウンドで伝えていくことだろう。
「父が来店してくれた米兵にお礼を言ったところ、『どうしてサンキューと言うんだい?僕たちはこの店が好きで来ているんだから、サンキューと言うのは僕たちのほうだよ』と言われたことがあるそうです。今のお客さまにも、そんなふうに感じていただけるような店であり続けたいですね」