江戸時代に天文観測所が置かれた事が由来となる鹿児島市内の「天文館」という場所は南九州エリアでも歴史ある繁華街である。そんな天文館のザビエル通り沿いにあるビルの2階に「BAR SAMSARA(バー・サムサーラ)」はある。
店内に入ると非日常感溢れる空間が広がる中で、カウンター奥の棚にはところ狭しと洋酒のボトルやグラスが並ぶ。
店名の「SAMSARA」という言葉は、サンスクリット語で「輪廻転生」を表す。この地で32年もの間営業を続ける歴史の長いBARである。
「BAR SAMSARAは私が24歳の頃に営業を始めました。主に洋酒やカクテルを中心としたお店です。一期一会をコンセプトに店を営業していますが、開店のきっかけも本当にたまたまご縁があってこの地で始めたという感じです。それから、ここ天文館で32年間も営業を続ける事ができました。こんなに長く変わらずに営業しているお店は天文館にあるお店の中でも少ないと思いますよ」
そう語るのはこの店のオーナーである鎌田氏。店内に並ぶボトルの中にはビンテージ物も数多くあり、希少なお酒にも出会うことができる。お店以外にも倉庫があり、そこにもたくさんのお酒をストックしているという。
「お店をオープンして一年でダメならキッパリ辞めよう、という気持ちで始めました。しかし、おかげさまでたくさんのご縁に恵まれ、こうして今でも営業を続けられているのは本当にありがたいですね」
そう語る鎌田氏の背後の棚には、バカラなどの高級グラスが並べられており、店内の光に照らされ色とりどりに輝いている。
「良いお酒を提供するのに安いグラスでは失礼だと思い、バカラや薩摩切子など自分の目で選んだ様々なグラスを用意しています」
お酒やグラスと同様に音にもこだわりがあり、来店されるお客様やその日の雰囲気、季節によって流す音楽を選んでいるという。そんな「BAR SAMSARA」の空間や雰囲気を作るために欠かせないのが『JBL L88 Nova』である。
「お店の開店当初から『JBL L88 Nova』一筋です。音質と音のバランスともに気に入っていて、他のスピーカーに浮気しようと思ったことはないですね」
1960年代のモデルである『JBL L88 Nova』は、時代の流れやお客様を眺めながら、変わらぬ音で「BAR SAMSARA」ならではの空気感を創り続けている。
元々音楽好きな鎌田氏は高校時代に「ベストヒットUSA」を夢中になって視聴し、影響を受けたという。その後、大学入学を機に上京し、学生の頃はBARでアルバイトもしていたという。
「大学進学で上京したんです。当時、ソウルミュージックなどの音楽が好きでディスコにも足しげく通いましたよ。その頃の六本木は華やかで賑やかでしたね。 当時はディスコ全盛期で、アルバイト先のBARでもそうですが、様々な場所で色々なジャンルの音楽を体感することができました。その経験と余韻が今に繋がっていますね」
大学を卒業後、地元の鹿児島に戻りBARを開こうと模索していた鎌田氏だが、当時の鹿児島には東京にあるような雰囲気のBARはなかったと振り返る。
「当時の鹿児島には都会的なBARはありませんでしたね。そこで、ないのなら自分行きたいと思えるような雰囲気のBARを作ってやろうと考えました。お店のメインとなるのはお酒と音です。その重要な要素を担うスピーカーに関しては『JBL L88 Nova』の音を聴いた瞬間に直感で決めました」
「BAR SAMSARA」では、その日その時の雰囲気に合わせてファンクやソウル、ジャズなどジャンルや曲調などを選んで鳴らしている。『JBL L88 Nova』はどのジャンルの音楽を鳴らしても原音を再現してくれるのでとても気に入っていると語る。
「この店で流れる音楽は『JBL L88 Nova』があってこそです。地元の音楽関係者の方も音が良いねと言ってくれていて、長く通ってもらっています」
「開店準備当時は、ただ漠然と大音量で鳴らしても音が割れないスピーカーが欲しかったんですよね。お客様を盛り上げるために大音量で音を鳴らす時間帯も必要だと考えていましたので。それでたくさんのスピーカーを聴いて回ったのですが、『JBL L88 Nova』に出会った時、大音量の音質はもちろん見た目も良くて、すぐにこれだと思いましたね。オープン当初からずっとこの店で鳴らしていますが、今でもくたびれる事なく、良い音で鳴ってくれています。」
そんな『JBL L88 Nova』は、今となってはお店にとってなくてはならない存在だという。
「かつての常連さんで、今は亡くなられた方の命日には、その方が使っていたグラスにお酒を注いでカウンターの上に並べるんですよ。ただの自己満足ですけどね」
音楽と一緒で人ともご縁のある方に出会える、と語る鎌田氏。そういった縁のある方との出会いを大切にするため、お酒やグラス、音が創り出す『BAR SAMSARA』だからこその雰囲気を大切にしている。
お酒やグラス、音楽のみならず、仕事に対する姿勢にもこだわりを持っている鎌田氏。音楽の好みはお酒の好みと一緒で押し付けないという。時には盛り上がるような曲を、時にはしっとりするような曲を、来ていただいたお客様がほんの少しでも居心地よく感じていただけるように選曲している
「BARとは日常と非日常の境目。扉を開けた瞬間から、人生と人生が交差し始めます。この店に来てくださったお客様に満足してもらうためにお酒や音楽は必要不可欠なもの。この先もずっとうちのお店で、質の良い音で音楽を聴きながら、上質なお酒を上質なグラスで味わってもらいたいと思っています。」
鎌田氏が鹿児島のこの地で長く営業を続けられている背景には、人と人、人と音楽との巡り合いや一期一会を大切にする姿勢にあるのだろう。