ある集中的な磁力の中(磁界)に、電線を丸めたコイルを置き、コイルに振動を与えると電力が発生する。これがアナログレコードを再生するMC型フォノカートリッジの発電原理。針先がトレースするレコード盤のギザギザが振動源である。一方、磁界の中に置いたコイルに電気信号を与えるとコイルに振動が発生し、音の波を発生させることができる。これが(ダイナミック型)スピーカーユニットの発音原理だ。
スピーカーユニットに使用されるこのコイルはとくに「ボイスコイル」といわれる。ボイスとは一般的には声を指すから、ボイスコイルとは「声を出すコイル」「音声コイル」ということになるのだろう。これはなかなか味わいのある呼称であると思いませんか。そしてボイスコイルは巻き芯となるボビンを介してコーンやドーム型をした振動板と結びつき、空気を振動させる。
前項では、JBLスピーカーは大音量に強いところが素敵、という趣旨のお話をした。じゃあ、大音量に強いスピーカーユニットとはどんなものなのだろう。
大音量のためには振動板が大きく動くことが必要、というのは実はそれは完全な正解ではないにしろ、一面では正しい。振動板の振幅は、スピーカーユニットの振動系(振動板、ボイスコイル、ボビン)を支持しその振幅をコントロールするエッジ(振動板の回りにあるのでサラウンドともいう)とダンパー(ボイスコイルボビンを支持するもので、スパイダーともいう)、そしてボイスコイルの巻き幅およびコイルが置かれる磁気回路内の磁界(磁気ギャップという)の長さによって制限、というかコントロールされることになる。だから各社これらの要素をどう組み合せるかに腐心することになる。
だが、この振幅量はあくまでどこまで振動板を動かせるかということを示しており、それはそれで音量に関わるのだけれど、それだけでは大音量に強いということには結びつかない。
振動板が空気を押して引くためには、それなりの駆動力が必要となる。その力は、乱暴にいうと、磁気ギャップの磁力の強力さ(磁束の密度で示される)と、ボイスコイルの直径でかなりの部分が決まってくる。磁束密度は、磁石の磁力と、磁束を導く磁気回路の設計で決まるわけだが、すごく単純にいえば、磁束密度が高いほど、ボイスコイルの直径が大きいほど駆動力は高まる。すなわち、磁力の大きな磁気回路と大きなボイスコイルの組合せが、強力なユニットということになる。コイルを巻き付けた筒(ボビン)で振動板を押したり引いたりするのがダイナミックスピーカーの構造だから、直径の大きな筒で押したり引いたりするほうが、なんとなく強そうな感じがしませんか?
ランシングがJBL社を創業したころ、最高の永久磁石は、アルニコマグネットだった。このアルニコマグネットを入手するために苦心した痕跡は、手紙としていまも残されているはずだが、JBL社は創設したときから、強力な磁気回路を志向していたことがここでは重要だ。実際、非常に強力な磁気回路が同社のスピーカーユニットの最初からの一大特徴だった。では、ボイスコイルはどうか。JBLの最初のスピーカーユニットは、D101という15インチユニットだったが、これは3インチ径のボイスコイルであった。しかしすぐにD130が登場する。D130はD101よりひとまわり大きな4インチ径ボイスコイルを持っており、その後長きにわたって15インチユニットの最高峰に君臨することになった傑作モデルである。強力なアルニコマグネットを持つ磁気回路と4インチ径ボイスコイルの組合せは、大口径ユニットの規範的な姿となったのだ。私は、D130(130A)こそが、ヴィンテージJBLユニット、つまりヴィンテージJBLサウンドの典型にして象徴という思いを抱いている。
さてしかし、ここまでの説明でも肝心なところが抜けている。それは大口径ボイスコイルがなぜ大音量に強いかということだ。ボイスコイル径が大きいと駆動力が高いということはなんとなくご理解いただけたとは思うが、それよりも、大音量再生時には、実は熱の発生が大問題となるのだ。ボイスコイルに電気が流れると、コイルの抵抗によって熱が発生する。熱は電流量が多いほど、つまりパワーが入るほど増えていく。その温度は瞬間的には100度を大きく超えることもある(らしい)。スピーカーユニットが飛んで(壊れて)しまう原因は、この熱によってコイルが切れたり、接着剤が溶けたりすることが多いのである。熱は磁石にも悪い影響を及ぼす。JBL社にはスピーカーユニットの耐久性を調べるため、長時間連続して大きな信号を送り込んで動作させるための部屋があった。その轟音渦巻く部屋に入るには遮音のためのヘッドフォンのようなものを装着する必要があるのだが、部屋の中はムッとするような暑さであり、ユニット後部は触れないほど熱かった。なるほど、スピーカーユニットはかなりの熱を発生しているのだということを実感したことが思い出される。
放熱ということがしたがってこの場合、大きな課題となる。放熱のもっとも効果的な方法は、発熱体の面積を増やすこと。アンプのヒートシンクを思い浮かべて欲しい。あれは表面積を増やすためにあのような形状になっているのだ。だから、ごく単純なこととして、ボイスコイル径が大きいほどその面積も増えるから放熱には有利になる、という理屈が成り立つ。大口径ボイスコイルにはそのような意味もあるのだ。そして、熱の発生を抑えることは、それだけロスが少ないということにもなるのだから、これはなにも大音量再生時のみの問題ではないのである、というのが今回のポイントであります。
D130で始まった4インチボイスコイルを持つ15インチユニットという形態は、いまも1500系ユニットに引き継がれ、ことにK2、エベレストに搭載されている1500ALファミリーのウーファーは、現代最強のユニットとしての地位をほしいままにしている。その実力は、もうみなさんご存知のことだと思う。