Vol. 6

ホーンを搭載したシステムは固有の魅力を持っている。

~オーディオは出てきた音を人間がどう感じるかが重要だ~

近現代的と自負しているスピーカー設計者の中には、ホーンというものを忌み嫌う人々がいる。それは多数派といってもよい。最近になって、いやホーンにもいいところがあるよ、という柔軟な姿勢を見せる設計者に会うこともあるが、私が話をうかがったことのあるほとんどの方は、ホーンはSRやPA用、つまり、ホールとか野外など、広い空間で大きな音を出すためのスピーカーであって、家庭用としては問題が多い、という意見を持っていた。実際に現在のコンシューマーの市場を見回しても、ホーンを用いたシステムは圧倒的に少数派であることが、これを裏付けている。

一例を挙げよう。私がその技術力に高い敬意を抱いている、あるヨーロッパのスピーカーメーカーを訪ねたときのこと。工場見学の前に、技術者からレクチャーを受けたのだが、コンピューター画面に最初に表示された文言は「HORN IS BAD」というものだった。その後縷々、ホーンの欠点を指摘しながら、いかにわれわれのダイレクトラジエーション、すなわちスピーカーユニットの前にホーンを持たず、振動板と空気が直接対峙している方式が優れているのか、という説明が続いたのである。私は、礼儀としてその話をおとなしく聞いていたのであるが、内心うんざりしたものである。なぜならば、現実問題として、ホーンを搭載したシステムにも、素晴らしいサウンドを奏でるモデルがたくさんあることを知っていたからだ。理屈はともかく、オーディオは出てきた音を人間がどう感じるかが重要だと私は思うタチだし、技術者はそれぞれが正しいと信じる方式を追求することが大切ではあるけれど、それ以外の方式を誹る必要はないだろうと思うのである。イデオロギーではないのだから。

ホーンの欠点として挙げられるのは、音がこもったようになるメガホン効果。放射音を囲い込むことによる指向性の狭さ。ホーンという物質が発する共鳴や固有音が再生に色づけを与える。といったことが代表的な例だろう。ところが困ったことに、いま挙げたような欠点を、私はこれまでホーンシステムに感じたことがほとんどないのである。言葉は悪いが、「それがどうしたの?」、マイルスばりにいえば「So What?」である。ここをご覧になっている人の大半は、JBLのホーンシステムのファンだろうから、いちいち説明する必要はないとは思うが……メガホン効果は、再生帯域を正しく規定すれば生じないし、指向性の狭さは、無響空間でもあるまいし、まして球面波であれば、私には自然なロールオフと聴こえることが多く、そもそも本質的なエネルギーが高いスピーカーの場合、ある程度以上の放射角度を持っていれば、部屋中に音が満たされるように私は感じるので問題はない。むしろ自然なロールオフと感じたりして好ましかったりすることすらある。色づけの件に対しては、世の中に色づけのないオーディオ機器などあり得ないとだけいっておきたい。ようはその色が各人にとって気持ちがいいかどうかだけの問題ではないのか。

このような事柄は、個人差が激しいのは事実である。例えば、私は(きれいな)箱鳴りは気にならないが、それをとても気にする人の気持ちはわからないわけではない。バスレフのノイズも同様だ。いっぽう、私は一時大流行したコンデンサー型やリボン型の平面状のスピーカーシステムも大好きだが、それらの推進派の人々が当時いっていたように、箱鳴りがないからS/Nがよく、だから音がよい、というふうには考えなかった。フレームの強度の少なさ、大面積の振動板(膜)の固有音等は拭いさることはできず、箱のスピーカーシステムとは別種のS/Nの悪さを感じるからである。そもそもS/Nがよいことと音がいいことは直結しない。金属や特殊樹脂のエンクロージュアを備えたスピーカーシステムも同じで、それらはたしかに数値上の振動は少ないのかもしれないが、高剛性であるがゆえに、特定の共振峰に起因する固有音は、やはり消し去ることはできないのだな、と私自身は感じることが多い(ただし、最先端の金属エンクロージュアには、固有音をほとんど感じることはなくなった。いまのところではあるが)。たぶん、ホーンや箱の固有音が気にならないのと同じ意味で、平面型の共振音や高剛性エンクロージュアの固有音が気にならない方もいるのであろう。

ここで繰り返しいっておきたいのだが、私は平面型スピーカーも好きである。また、高剛性エンクロージュアをまとったシステムにも好きなモデルがたくさんある。駄目押しをすると、JBLのホーンを搭載していないシステムも好きである。つまりは、ホーンを搭載しているからよいとか搭載しているからダメだとかという論理にはまったく与することができないのだ。だって、それぞれ特有の魅力を持っているではありませんか。

この理屈でいうと、当たり前ですが、ホーンを搭載したシステムは固有の魅力を持っている、ということになる。それも強烈に。それを最初に記した技術者のように捨て去るのは間違いである、という言い方がキツければ、あまりに惜しいといいかえよう。

JBLの新たなフラッグシップ EVEREST DD67000
JBLの新たなフラッグシップ
EVEREST DD67000

現代において、「正統的な」ホーンを搭載したコンシューマー用スピーカーシステムをいまだに新規開発し、つねにラインナップしているメーカーは、JBLの他には(ほとんど)ない。今年(2012年)に限っても、新しいフラグシップモデルとして登場したプロジェクト・エベレストDD67000やDD65000、トールボーイ型で設置の容易なS3900という素敵なシステムをJBLは発表した。このことだけでも、私はJBLはエライと思う。

設置性に優れたS3900
設置性に優れたS3900

以下は蛇足かもしれないが、私がホーンシステムで難しいと思うところが一点だけあるので記しておきたい。それは各ユニットのスピードというかタイミングを揃えることである。ホーンはどうしても長さが必要なので、前に突き出すと収まりが悪いし、後ろに収めると、過大な遅れが生じることがある。これらは振動系の質量や反応速度や受持ち帯域等にも依存するので、例えば各々のボイスコイル位置とリスニングポジションの距離を揃えれば解決するものではないと体験上考えているのだが、近代のJBLシステムが低域だけはダイレクトラジエーション方式を譲らないのは、私には賢明であるように思える。

ホーンの魅力について私が思うところは次回に述べたい。